おいしいラーメンを作れば、売れるのか

自分の作ったラーメンを「おいしい」と言わせたい。そう考えたとき、まず磨くのは最高のスープ、最高の素材、絶妙な組み合わせだろう。作り手として当然の姿勢だ。しかし、どれほど中身が優れていても、「うまいから食え!」と押しつけるだけでは、食べてもらえない。

食べる側には、食べる側の事情がある。好みは塩なのか、醤油なのか、味噌なのか。どんな場所で、どんな気分のときに食べたいのか。そして、誰が「おいしい」と言えば信じるのか。店の看板より、知人・友人の一言のほうが効くことは珍しくない。味を磨くことと並行して、相手を知らなければ、最適な出し方は決められない。

PR・広告も同じである。前回までに扱ってきたBI(ブランド・アイデンティティー)は、いわば「ラーメンの中身」を決める作業だ。ここから先の「どう届けるか」は、ユーザーを知ることから始まる。

IMCとは ― 点ではなく、面で考える

IMC(Integrated Marketing Communication=統合型マーケティング・コミュニケーション)とは、広告やPRなどの個別の施策を、ユーザー視点でひとつに束ねて設計する考え方だ。

広告を1本磨く、プレスリリースを1通書く、サイトを1ページ直す。これらは「点」の発想である。IMCでは、ユーザーの周りに存在するあらゆるコミュニケーションの機会を設計対象にする。広告やメディア報道はもちろん、検索結果、自社サイト、SNS、口コミ、店頭、営業担当者の一言まで、すべてが対象になる。

ここで押さえたいのは、ユーザーに届く接点には、性質の違うものが混在していることだ。

  • お金を払って出す接点:広告など(Paid)
  • 第三者が語る接点:メディア報道、口コミ、SNSでの言及など(Earned)
  • 自社が持つ接点:自社サイト、メルマガ、カタログ、店頭など(Owned)

これは、以前の記事で扱ったトリプルメディアと同じ整理である。かつては、企業が選んだ媒体に広告を出す形が中心だった。いまは、ユーザー自身が検索し、比較し、他人の声を確かめ、ときには自ら発信する。企業が直接コントロールできない接点の影響が、年々大きくなっている。

メディアミックスは「足し算」、クロスメディアは「掛け算」

IMCの実践としてよく語られるのが「クロスメディア」だが、メディアミックスとは考え方が異なる。

メディアミックスクロスメディア
考え方既存メディアでリーチを広げる(足し算)ユーザーの接点ごとに、メッセージを組み合わせる(掛け算)
起点媒体ユーザー
メッセージどの媒体でも同じ内容を繰り返す接点ごとに役割と内容が違う

クロスメディアとは、「2つ以上のメディアにまたがって展開すること」でも、「プロモーションにWebを絡めること」でもない。ひとりのターゲットユーザーに接触できる複数の接点で、それぞれにもっとも効果的なタイミング、メッセージ、表現を使い、重層的に伝えることである。接点ごとのメッセージが連なることで、ストーリーが増幅していく。

例:設備点検の代行サービス(架空の例)

ある製造業向けの新サービスを例にしてみよう。ユーザーの動きに沿って接点を並べると、次のようになる。

  1. 取引先の紹介や展示会で名前を知る:「こんな課題はありませんか」と、問題提起だけを短く伝える
  2. 社名で検索し、自社サイトを開く:「解決の仕組みはこうです」と、納得できる説明を用意する
  3. 事例記事やメディア掲載を読む:「実際に使った企業がいる」という第三者の裏づけを示す
  4. 同業の知人に評判を聞く:「頼んでよかった」と言ってもらえる事例を、紹介してもらいやすくしておく
  5. 問い合わせる:「まずは相談だけでも」と、ハードルの低い入口を用意する

同じ文言を5か所に載せるのではなく、それぞれの場面でユーザーが知りたいことに答える。これが「掛け算」の意味だ。

最初にやるのは、ユーザーが何に触れ、何をしているかを知ること

では、何から始めればよいのか。まず取り組みたいのは、ユーザーの現状を知ることだ。施策を考える前に、ターゲットとするユーザーが、目的(購入や問い合わせ)にたどり着くまでにどんな経路を通り、どんな接点に触れているかを把握する。

整理の枠組みとして使いやすいのが、電通が提唱したAISASである。ユーザーの情報収集と行動を、次の5段階で捉える。

段階ユーザーの行動確認したいこと
Attention(注意)存在を知るどこで自社や商品を知るのか
Interest(関心)気になって見る何を見て、興味を持つのか
Search(検索)調べて比べる何で検索し、どこを見て比べるのか
Action(行動)購入・申込・問い合わせどこで、どんな手順で行動するのか
Share(共有)感想を人に伝える誰に、どこで伝えるのか

ネットが普及する前の「注意→関心→欲求→記憶→行動」と比べ、「検索」と「共有」が加わっているのが特徴だ。企業が発信した情報を受け取るだけでなく、ユーザー自身が調べ、確かめ、広めるようになった。

ユーザーの経路を見るときの着眼点は、次の2つに絞れる。

  • 接点は何か:ユーザーは、どこで、何に触れているのか
  • ユーザーはそこで何をしているか:たとえば「知人に相談する」は、口コミという接点が働いている状態である

目指すのは、完璧な「最適」の経路を探すことではない。いまよりユーザーにとって楽で、納得しやすい「より良い経路」を見つけることだ。

中小企業でもできる、接点の把握

大がかりな調査は必要ない。まずは、次のようなことから始められる。

  • 官公庁の統計や、シンクタンクのレポートなどの公開資料で、ユーザーの動向を先に確認する
  • 最近の受注先・購入者に、「どこで知ったか」「ほかにどこを見たか」を聞く
  • 自社名やサービス名で検索し、ユーザーに何が見えているかを確認する
  • 問い合わせフォームに、「何で知ったか」を選ぶ設問を1つ加える
  • 営業や現場のスタッフが、お客様から聞いた声を持ち寄る

具体的な進め方は、次の記事「中小企業のための調査入門」で整理している。

全部やらない ― 優先順位のつけ方

接点は数多くあり、すべてに手を打つ必要はない。中小企業ほど、優先順位が大切になる。見るポイントは3つだ。

  1. ユーザーが実際によく通る接点か
  2. そこで、自社が十分に見えているか(情報がない、途中で途切れている、メッセージがずれている)
  3. 自社の手で直せるか(自社サイトのように、自分で整えられる接点は着手しやすい)

「よく通る・弱い・直せる」接点から手をつける。多くの場合、その最初の候補は、ユーザーが最後に必ず訪れる自社サイトになる。そのためにも、まずBIを固めて受け皿を整えることが、遠回りに見えて、近道になりやすい。

PR・広告は、その次だ。ユーザーの接点を知り、自社の軸と受け皿が整ってはじめて、「どこに、何を、どう出すか」を具体的に決められる。

執筆者:六角健二

1987年より東急電鉄系広告会社で企画営業として、ソニー系のプロジェクトをハンドリング。2000年に米国ストラテジックインターネットサービスプロバイダーとのジョイントベンチャー設立メンバーとして参画。2002年からは取締役クライアントパートナーとして、大手企業のブランディングやWebマーケティングに従事。2007年よりIMC型広告コンサルティングを経て、2013年に株式会社エルテックスに入社。エルテックスでは、自社製品のUI開発やECサイトのリニューアルプロジェクトに参加。2020年に株式会社A5bpを設立し代表取締役に就任、以降中小企業のブランディングやマーケティング&コミュニケーション支援に専念している。