「ブランディング」だけでは不十分
A5bpのコラムでは、これまで「中小企業ブランディングコラム」として、BI(ブランド・アイデンティティー)を軸にした話を続けてきた。ブランドの軸を決めることは大切だが、それだけでは会社は伝わらない。決めた軸を、実際に生活者や取引先に「どう伝えるか」という技術が別に必要になる。それがマーコム(マーケティング&コミュニケーション)である。
ブランディングが「何者であるか」を定める作業だとすれば、マーコムは「それをどう届けるか」を設計する作業だ。どちらか一方だけでは機能しない。骨太な中身(BI)があっても、届け方(マーコム)が雑だと誰にも気づかれないし、逆に届け方だけ上手でも、中身が空虚だとすぐに見透かされる。
マーコムとは何か
マーコムは、広報(PR)・広告・自社メディア(オウンドメディア)という、性質の異なる複数のコミュニケーション手段を組み合わせて設計する考え方を指す。それぞれ「お金がかかるか」「誰がコントロールするか」「信頼されやすいか」が異なる。
- 広告(Paid Media):掲載費を払って、自社の意図通りに露出する
- 広報/PR(Earned Media):第三者であるメディアに取り上げてもらう、掲載費は不要だが意図通りになるとは限らない
- 自社メディア(Owned Media):自社サイトやSNSなど、自分たちで所有し運用するメディア
この3つを「トリプルメディア」と呼ぶ。中小企業の多くは、この3つのうち1つ(たいてい自社サイト)しか意識できておらず、残る2つ、特にPRを使いこなせていない。
マーケティングとマーコム、どこが違うのか
マーコムの定義はさまざまあるが、A5bpでは次のように整理している。まず、企業が収益活動のために行うことを、大きく5つに分ける。
- 市場・顧客分析
- 商品・サービス開発
- 市場展開するための方法策定
- 広告・販促・PR・CRMの立案と実施
- 活動の集計・分析・改善案
| 呼び方 | 関わる範囲 | 特徴 |
|---|---|---|
| マーケティング | 1〜5の全般。1・2が主戦場で、3以降も関わる | 全般的な活動の設計と実行。ゼロベースの製品開発も行う(メーカーのマーケティングが典型) |
| マーコム マーケティング&コミュニケーション |
1〜3にも関わり、4以降が主戦場 | ユーザー中心で、対話を重視する(広告会社のマーコムが典型) |
つまり、マーケティングが「何を、誰に、どう売るか」の全体を扱うのに対し、マーコムは「ユーザーとどう対話し、どう伝えるか」に重心を置く。中小企業の場合、商品・サービスはすでにあることが多い。だからこそ、4以降の「伝える」部分を、ユーザーの視点から組み立て直す価値が大きい。
中小企業がマーコムでつまずく理由
相談を受けていて共通しているのは、次のような悩みだ。
- 無形のサービスで「何を訴求すべきか」が曖昧
- 業界が地味で、話題になる要素がないと思い込んでいる
- そもそも「うちのPR・広告を見る人がいるのか」という不安
だが、どんな企業規模・業態であっても、等身大の「PR・広告」の方法はある。大企業のように広い範囲に広告費を大量投下できないなら、ターゲットを絞り込んだロングテールの発信で十分に成果を出せる。ネタは向こうからはやって来ない。積極的に探しにいく姿勢が必要になる。
IMC発想とユーザー中心 ― 最初にやるのは「接点を知る」こと
マーコムを設計するときの土台になるのが、IMC(Integrated Marketing Communication=統合型マーケティング・コミュニケーション)の発想だ。広告、PR、Webサイト、店頭、営業の一言、口コミ。これらを別々の施策として考えず、ユーザーに届くあらゆるコミュニケーションの機会を、ひとつの設計対象として束ねる。
このとき起点になるのは、自社が言いたいことではなく、ユーザーだ。ターゲットとするユーザーは、日々何に触れ、何を見て、誰に相談し、どう動いて購入や問い合わせに至るのか。ユーザーの周りにある各種の接点(接触の機会)が何であるかを、まず調べて把握する。これがユーザー理解の入口になる。
接点が見えれば、どこに何を置くべきか、何が足りないかが見えてくる。企画も施策も、結果もぐっと的確になる。逆に、ここが曖昧なまま打つPR・広告は、ユーザーのいない場所に向けた発信になりやすい。具体的な考え方と進め方は、次の2本の記事で扱う。
このシリーズで扱う7つのテーマ
「中小企業のためのマーコム入門」では、以下の7本のクラスター記事で、実務に落とし込める形でマーコムの基礎を解説する。
- 広報(PR)と広告、その違いをご存知ですか:似て非なる2つの手段の本質的な違い
- トリプルメディアって何?中小企業がまず押さえるべき考え方:Paid/Earned/Ownedの組み合わせ方
- ネットPRのはじめ方:低予算からできる情報露出の作法
- 「PRネタ」の作り方:記者が食いつく7つの要素
- BIなくしてPR・広告なし:ブランドを固めてから発信する順番、実践事例つき
- ユーザーを知らずにPR・広告は打てない:IMC発想と、接点の把握から始めるマーコム
- 中小企業のための調査入門:お金をかけずに「ユーザーを知る」方法
ブランディングコラムと合わせて読むことで、「何者であるか」を固め、「どう伝えるか」を組み立てる、両輪が揃うはずだ。