ユーザーを知る調査は、「すでにある資料」から始める

「ユーザー調査」と聞くと、調査会社に依頼する大規模で高額なものを想像しがちだ。しかし、中小企業が最初に取り組むなら、アンケートを取ったり人に会って聞いたりする前に、すでに誰かが調べて公開している資料を読むことをおすすめしたい。

官公庁は統計や白書を、シンクタンクはレポートを、業界団体や研究機関は調査結果を、多くは無料で公開している。これらはいわゆるデスクリサーチと呼ばれ、費用をかけずに、市場の動きやユーザーの実態をつかむ近道になることが多い。前回の記事「ユーザーを知らずにPR・広告は打てない」で述べた、ユーザーの周りの接点を把握する作業も、ここから始められる。

事例:サービス開発の前に、まず公開資料を調べた

実際の例を紹介したい。ある企業が、子どもが通う施設(児童館や学童保育など)向けに提供している、入退館をQRコードで管理するサービスを、大きくバージョンアップするプロジェクトである。新しいバージョンを企画するにあたり、いきなり現場に聞きに行く前に、まず公開されている資料から調べた。

調べる目的は、次の3つに分けて整理した。

  1. 市場はどうなっているか:対象となる施設や利用者の数、その推移は、公開されている統計で確認する
  2. 制度や政策はどちらへ向かっているか:国の審議会や検討会の資料、ガイドライン、自治体の計画から、これから現場に求められることを読み取る
  3. 現場では何が課題になっているか:シンクタンクや研究機関、業界団体の調査報告から、運営側・利用者側の実態を把握する

この順番で材料を集めると、自分たちの思い込みで機能や訴求を決めることを減らしやすくなる。さらに、あとで現場の方にヒアリングするとき、「何を聞くべきか」「どこを確かめるべきか」が具体的になりやすい。公開資料は、答えを出すためだけでなく、よい質問をつくるための材料にもなる。

公開資料は4種類に分けて探す

種類主な例わかること
官公庁の資料 政府統計の総合窓口(e-Stat)の各種統計、中小企業白書、情報通信白書、各省庁の調査・審議会や検討会の資料、ガイドライン、補助事業の調査報告書 市場の規模と推移、制度・政策の方向、現場の実態
自治体の資料 各自治体が公表する計画書、実施状況の報告、議会資料 地域ごとの需要、施策の優先順位
シンクタンク・研究機関・業界団体の資料 民間シンクタンクが無料で公開するレポート、研究機関の調査、業界団体・協会の調査結果、論文(J-STAGEなど) 動向の分析、将来の見通し、利用者の意識や行動
同じ業種・業態の企業の自主調査 同業・近い業態の企業が、自社サイトやプレスリリースで公開している意識調査、実態調査、レポート 業界の実態、ユーザーの意識や行動(自社のユーザー層に近いことがある)

同じ業種・業態の企業が出す自主調査は、自社のユーザー層に近い対象に聞いていることがあり、参考になりやすい。一方で、PR(広報)のために公開されているケースもある。その場合、調査の設問や集計の見せ方が、その企業の主張や商品に有利な形になっていることも考えられる。鵜呑みにせず、調査対象、回答数、設問、調査時期を確認し、官公庁やシンクタンクなど他の資料とも突き合わせて読みたい。

官公庁の資料は、数字の裏づけが取りやすく、制度の方向性も読み取れることが多い。シンクタンクや業界団体の資料は、現場に近い視点の分析や、利用者の意識がわかることがある。この2つを組み合わせて読むと、「数字」と「その背景」の両方をつかみやすい。

探し方のコツ

  • 検索で範囲を絞る:キーワードに「site:go.jp」を足すと、官公庁のサイトに限定して検索できる。「filetype:pdf」を足すと、報告書のPDFが見つかりやすい
  • 検索語に「調査」「実態」「報告書」「白書」を添える:たとえば「(自社の対象) 実態 調査 報告書」のように探す
  • 統計は、e-Statで探す:分野や調査名から、公開されている統計表を探せる
  • 審議会・検討会の資料を見る:政策の方向や、現場の課題をまとめた資料が、議事録とともに公開されていることが多い
  • 国立国会図書館サーチを使う:報告書や論文を、横断して探せる
  • 同業他社の自主調査は、プレスリリースで探す:「(業種) 調査」「(サービス名) 実態調査」などで検索すると、企業サイトのレポートや、プレスリリースの配信サイトで見つかることがある
  • 参考文献をたどる:多くの資料には、元になった調査の名前が書かれている。そこから一次資料に進むこともできる

資料の読み方 ― 5つの確認

公開されている資料は、読み方によっては判断を誤ることがある。次の5つを確認しておくと安心だ。

  1. 誰が出した資料か:官公庁、研究機関、民間の調査会社など、出し手によって調査の目的が違う
  2. いつの調査か:古い数字は、いまの状況と違うことがある
  3. 誰に、どう聞いた調査か:対象者と、回答数、調べた方法を確かめる
  4. 言葉の定義は何か:同じ言葉でも、資料によって範囲が違うことがある
  5. 自社のユーザーに当てはまるか:全体の平均が、自社のユーザーの実態とは限らない

数字を自分たちの資料で使うときは、出典と調査年を明記する。各サイトには利用規約があるので、転載や加工は条件を確認してからにする。

SNSの評判や、競合へのユーザー評価も参考にする

統計やレポートは、全体の傾向をつかむのに向いているが、ユーザーの生の声までは載っていないことが多い。その補いになるのが、すでにネット上に出ているユーザーの声である。調査を新しく行わなくても、見られるものは多い。

  • SNSの投稿:自社や競合、同じ分野のサービスについて、ユーザーがどんな言葉で語っているか
  • アプリストアのレビュー:競合がすでに出しているアプリに対する、星の数と、書かれた感想
  • 口コミサイト・レビューサイト・Q&Aサイト:使ってみての評価、比較の観点、困りごと

見るときは、星の数や件数だけでなく、中身を読むことをおすすめしたい。確認したいのは、次のような点だ。

  1. 評価されている点:ユーザーが「よい」と感じて、残しておきたい点
  2. 不満や、使いにくいと言われている点:自社が先に解決できれば、差になるかもしれない点
  3. 「あったらいいのに」という要望:まだ満たされていない期待
  4. ユーザー自身の言葉:自社のサイトや資料の言葉づかいを、ユーザーの言葉に寄せるヒントになる

たとえば、競合のアプリのレビューで同じ不満が繰り返し書かれていれば、それは自社がつくる機能や、伝え方の仮説になる。公開資料で見えた全体の傾向に、こうした生の声を重ねると、ユーザーの姿がより立体的に見えてくる。

読むときの注意

  • 声が偏ることがある:強い満足や、強い不満を持った人ほど書き込みやすい。多数派の意見とは限らない
  • 宣伝や、実態と違う投稿が混じることがある:不自然に似た投稿や、短期間に集中した投稿には注意する
  • 少数の声は仮説として扱う:件数が少ないうちは、結論にしない
  • 投稿の扱いに配慮する:個別の投稿をそのまま転載したり、投稿者に接触したりするのは避ける。サイトの利用規約も確認する

公開資料の次は、現場の声で確かめる

公開資料でわかるのは、主に全体の傾向である。自社のユーザーが実際にどこで何に触れているかは、ここまででは確かめきれないことが多い。そこで、現場の声も聞いてみたい。ただし、ここも大がかりにする必要はない。

方法わかること進め方の目安
既存顧客・取引先へのヒアリング知ったきっかけ、比較した相手、決め手3〜5人に、1人30分程度
問い合わせ・申込時の1問アンケート流入の実態を、継続的に把握できるフォームに選択式の設問を1つ加える
営業・現場スタッフの聞き取り現場で聞かれる疑問、断られた理由半日ほどの座談会形式
検索結果の確認自社名・サービス名・課題のキーワードで、何が表示されるか。競合の見え方1〜2時間
アクセス解析・Search Consoleどこから来て、どのページを見ているかすでに導入していれば追加の費用は不要

公開資料で立てた仮説を、これらで一つずつ確かめていく。公開資料で仮説を立て、現場の声で確かめる。この順番は、少ない手間で大きく外しにくい進め方の一つだと考えている。

結果は「接点マップ」にまとめる

集めた情報は、前回紹介したAISASの5段階に沿って、ユーザーの接点と自社の状態を一覧にする。これが「接点マップ」である。公開資料で見えたユーザーの動きと、現場で聞いた実態を、同じ表に並べる。

段階ユーザーが触れる接点自社の状態
注意取引先の紹介、展示会紹介はあるが、一言で説明できる軸がない
関心名刺、会社案内資料の内容が古い
検索社名での検索、公式サイト公式サイトのみ。事例や第三者の記事がない
行動問い合わせフォーム入口はあるが、相談のハードルが高い
共有同業の知人との会話紹介してもらうための材料がない

※表は書き方を示す架空の例である。

まとめたら、各接点がどの状態かを見る。整理すると、課題は次の3つのどれかに分かれることが多い。

  • ない:ユーザーが通る接点に、自社の情報がそもそもない
  • 切れている:接点はあるが、次の行動につながっていない
  • ずれている:接点ごとに言っていることが違い、伝わり方がばらばらになっている

進め方のイメージ

  1. 調べたいことを決める:誰の、何を知りたいか。結果を何に使うか
  2. 公開資料を集めて読む:官公庁、自治体、シンクタンク・業界団体、同業他社の順に探す。SNSや競合へのレビューも合わせて見る
  3. 仮説を立てる:ユーザーはどんな接点を通り、どこで迷っているか
  4. 現場の声で確かめる:ヒアリングや、検索結果・アクセス解析の確認
  5. 接点マップにまとめる:「ない・切れている・ずれている」を整理し、手を打つ順番を決める

調査で気をつけたいこと

  • 少数の声は、結論ではなく仮説として扱う:数人の声は手がかりであり、確定した事実ではない
  • 声が偏らないようにする:満足している顧客だけでなく、失注した相手や、取引が止まった相手の声も聞く
  • 誘導しない聞き方をする:「当社を選んだ理由」だけでなく、「選ぶ前に何を見たか、ほかにどこを検討したか」を聞く
  • 個人情報に配慮する:回答は目的を伝えたうえで集め、取り扱いに注意する

調査のあとに

接点マップができれば、サイトで直すこと、PRで補うこと、広告で補うことの優先順位が見えやすくなる。調査自体がゴールではなく、「次の一手を間違えないための準備」と考えたい。

まだ軸が固まっていない場合は、BIを固めるところから始める。全体の考え方は、中小企業のためのマーコム入門に戻って確認してほしい。

執筆者:六角健二

1987年より東急電鉄系広告会社で企画営業として、ソニー系のプロジェクトをハンドリング。2000年に米国ストラテジックインターネットサービスプロバイダーとのジョイントベンチャー設立メンバーとして参画。2002年からは取締役クライアントパートナーとして、大手企業のブランディングやWebマーケティングに従事。2007年よりIMC型広告コンサルティングを経て、2013年に株式会社エルテックスに入社。エルテックスでは、自社製品のUI開発やECサイトのリニューアルプロジェクトに参加。2020年に株式会社A5bpを設立し代表取締役に就任、以降中小企業のブランディングやマーケティング&コミュニケーション支援に専念している。