KKD経営から抜け出す ― 社長の頭の中のブランドを言語化する方法

KKD社長とは何か
中小企業のブランドが定義されていない背景には、多くの場合「KKD社長」の存在がある。
- K:経験
- K:勘
- D:度胸
長年の実務経験と鋭い勘、そして決断する度胸で会社を成長させてきた経営者は、間違いなく優秀だ。だが同時に、その判断基準が本人の頭の中にしかなく、マニュアル化・言語化されていないケースが非常に多い。
これは経営者を批判する話ではない。属人的な経営判断は、会社が小さいうちは強みそのものだった。問題は、それが会社の成長とともに「伝わらないもの」に変わっていく点にある。
何が起きるか:土壇場のちゃぶ台返し
言語化されていないブランドは、社員にも、外部の制作パートナーにも共有できない。結果として起きるのが、いわゆる「土壇場のちゃぶ台返し」だ。
現場の役員やスタッフが方向性を決めて進行していたプロジェクトが、最終段階で社長のひとことによって覆る――という光景は、決して珍しいものではない。社長からすれば「自分の好み」ではなく「うちの会社らしさ」に基づいた判断のつもりでも、それが事前に共有されていなければ、現場は振り回されるだけになる。
これが繰り返されると、
- 制作コストの無駄
- スケジュールの遅延
- 現場の疲弊とモチベーション低下
- 「どうせまたひっくり返る」という諦め
という悪循環に陥る。
言語化のプロセス
KKD経営から脱却するには、経営者の頭の中にある「らしさ」を、外に取り出して言葉にするプロセスが必要になる。具体的には次のようなステップを踏む。
1. 自己分析:これまでの意思決定を棚卸しする
過去に「これは良い」「これはうちらしくない」と判断してきた事例を集める。デザイン、企画、広告表現、採用基準など、ジャンルは問わない。判断の背後にある共通の価値観を探る。
2. 顧客分析:なぜ選ばれてきたのかを言語化する
自社を選び続けてくれている顧客に、選んだ理由を聞く。経営者の自己認識と、顧客からの見え方にギャップがあることも多い。このギャップこそが、言語化のための重要な材料になる。
3. 競争分析:他社と何が違うのかを整理する
競合と比較したときに、自社ならではの強み・立ち位置はどこにあるか。差別化ポイントを整理する。
4. 事業戦略との接続
言語化した「らしさ」が、今後の事業戦略と矛盾していないかを確認する。過去の強みに固執しすぎて、将来の方向性と食い違ってしまうケースもあるため、ここは経営陣で丁寧にすり合わせる必要がある。
完璧を求めなくていい
ここで強調しておきたいのは、BIを完璧に決め切る必要はないということだ。中小企業がいきなり大企業のような精緻なブランド・ステートメントを作る必要はない。
大事なのは、それに近い「握り」を経営陣と現場でしておくことだ。「うちの会社は、こういう時にこう判断する」という共通認識が、たとえ簡易的なものであっても存在するだけで、土壇場のちゃぶ台返しは大きく減らせる。
言語化したBIの使い方
言語化が済んだら、それを次のように使う。
- 社内のさまざまな決め事の「モノサシ」にする
- 経営者から社員まで共有する「共通バイブル」にする
- 新しい施策やクリエイティブを検討する際に「これはBIに沿っているか」を確認する基準にする
- 制作パートナーに、要望と一緒にBIを共有し、判断基準をあらかじめすり合わせておく
特に最後の「制作パートナーとの事前共有」は効果が大きい。▲▲▲(大手アパレルブランド)と裏原のお店の間で揺れた事例のようなことは、BIが事前に共有されていれば、そもそも起きなかった可能性が高い。
まとめ
- KKD経営(経験・勘・度胸)自体は悪ではないが、言語化されないと「伝わらないもの」になる
- 言語化されていないブランドは、土壇場のちゃぶ台返しという形でコストに転化する
- 自己分析・顧客分析・競争分析を通じて「らしさ」を言葉にするプロセスが必要
- 完璧を目指さず、経営陣と現場での「握り」を作ることが第一歩