BI(MVV)の決め方 ― 事業責任者を一堂に集めるワークショップという一例

BI(ブランド・アイデンティティー)やMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)をどう決めるか。これには唯一の正解があるわけではなく、企業の規模や文化によって様々なやり方がある。本コラムでは、その一例として、事業責任者を一堂に集めたワークショップ形式でBIを固めていったケースを紹介する。
なぜ経営者ひとりで決めてはいけないのか
以前のコラム「KKD経営から抜け出す」で触れた通り、中小企業では、ブランドの方向性が社長ひとりの経験・勘・度胸(KKD)に委ねられがちだ。社長が鶴の一声で決めたBIやMVVは、たしかに速い。しかし、現場の実態と乖離した「額縁のスローガン」になってしまうことも多い。
BIやMVVは、決めた後に組織全体で運用していくものだ。だとすれば、決める段階から、各部門の責任者を巻き込んでおいた方が、後々の浸透がはるかにスムーズになる。これが、事業責任者を一堂に集める最大の理由である。
ワークショップという方法
ある企業でBI策定の支援を行った際は、経営陣・各事業部の責任者クラスに一日集まってもらい、以下の3段階のワークショップを連続して実施した。
①SWOTワークショップ
自社の強み(Strength)・弱み(Weakness)・機会(Opportunity)・脅威(Threat)を洗い出す、おなじみのフレームワークだ。ポイントは、あえて2チームに分けて、同じテーマを別々に検討させることにある。
1チームだけで進めると、声の大きい人の意見に流されやすい。2チームがそれぞれ独立してアイデアを出し、その後に発表・すり合わせを行うことで、視点の偏りを防ぎ、より納得感のある「総意」に近づけることができる。
②ユーザーワークショップ
自社の主要顧客像(ペルソナ)を作る工程だ。ここで重要なのは、年齢・性別・役職といった表面的なデモグラフィック情報はあえて軽く扱い、サイコグラフィック(仕事に対する信条、スタイル、価値観、成功指標)を深掘りすることだ。「どんな人か」より「何を大切にしている人か」を突き詰めることで、後続のブランド設計に直結する示唆が得られる。
③ブランドワークショップ(MVV策定)
SWOTとユーザー分析で洗い出した与件を踏まえ、いよいよミッション・ビジョン・バリューを決めていく。ここでも、ミッション・ビジョンのアイデア出しとバリュー・パーソナリティのアイデア出しを、それぞれ複数チームに分けて行い、最後に全員ですり合わせるプロセスを踏む。
複数チームに分けて「あえて競わせる」理由
3つのワークショップに共通しているのは、常に複数チームで同じお題に取り組み、後で発表・討議するという構造だ。これには2つの狙いがある。
- 視点の複数化:ひとつのチームでは出てこない発想を、複数チームが競うことで引き出す
- 合意形成のプロセス化:「誰かが勝手に決めた」ではなく「みんなで討議して決めた」という納得感を、その場にいた責任者全員が持てる
この「納得感」こそが、BI・MVVを策定後に形骸化させないための、実は一番の勘所だと言っていい。
他社のMVVに学ぶ
ワークショップの中では、参考として他社のミッション・ビジョン・バリューの事例にも触れることがある。業種の異なる複数社を並べて見ると、「短く言い切る」「行動指針まで具体的に落とし込む」など、共通する型が見えてくる。もちろんそのまま真似るのではなく、自社らしい言葉に置き換えていく作業が欠かせない。
中小企業ではどう簡易化するか
ここまで紹介したのは、ある程度の規模の組織を想定したワークショップだ。中小企業がそのまま同じ規模で実施する必要はない。人数が少なければ、SWOT・ユーザー・ブランドの3ステップという骨格だけを踏襲し、半日程度で簡易的に実施することも十分可能だ。
大切なのは型の忠実な再現ではなく、経営者以外の視点を意図的に混ぜること、そして「みんなで決めた」というプロセスを踏むことである。
まとめ
- BI・MVVの決め方に唯一の正解はなく、本コラムの手法もあくまで一例
- 肝心なのは、経営者ひとりではなく、事業責任者を一堂に集めて決めるプロセスそのもの
- SWOT→ユーザー→ブランドという3段階で、都度複数チームに分けて討議すると、視点の偏りを防ぎやすい
- 中小企業では骨格だけを踏襲した簡易版でも十分に機能する
1987年より東急電鉄系広告会社で企画営業として、ソニー系のプロジェクトをハンドリング。2000年に米国ストラテジックインターネットサービスプロバイダーとのジョイントベンチャー設立メンバーとして参画。2002年からは取締役クライアントパートナーとして、大手企業のブランディングやWebマーケティングに従事。2007年よりIMC型広告コンサルティングを経て、2013年に株式会社エルテックスに入社。エルテックスでは、自社製品のUI開発やECサイトのリニューアルプロジェクトに参加。2020年に株式会社A5bpを設立し代表取締役に就任、以降中小企業のブランディングやマーケティング&コミュニケーション支援に専念している。